選択D

亜輝斗「もうやめろ、光騎!」

 

信ずものは己がのみ

その言葉だけに酔いしれ、他者を傷つける。

だからこそ愚かしい。

だからこそ憎らしい。

だからこそ、教えなければならない。

僕は…

僕は…!

 

 不意に亜輝斗の一言が聞こえる。

「どういうつもりだ、亜輝斗?」

「もうやめようよ!これ以上やったら、ガル死んじゃうよ!」

 確かに、亜輝斗のパンチを食らったガルは苦しそうだった。息を上げ、苦しそうに時々咳き込む。

 もう立つ力もないようで、僕の両腕にずっしりと体重がかかってくる。

「それに!こんなことしなくても、ガルなら説明すればわかってくれたよ!だから…!」

「だから、なんだ?」

 僕は、ゆっくりと亜輝斗を睨んだ。

「ガルなら、わかってくれるとでもいう気か?亜輝斗、お前、随分ガルのことをわかってるんだな。」

そういうと、僕はガルを地面へとたたきつけた。

「光騎…!」

 亜輝斗の声が怒気に満ちる。

「…て……いよ」

 僕は、自分でもわからないくらいの声を出していた。

「かかってこいよ!亜輝斗!」

「光騎ぃぃぃぃ!」

 叫び声と同時に、亜輝斗が僕目がけて突っ込んできた。

 ふん…

 僕は、傷だらけの亜輝斗を侮蔑する。亜輝斗は、うつぶせにダウンしたまま、小さくうめくだけだった。

 亜輝斗は冷静の欠片のないパンチを繰り返すだけだった。やすやすとよけて、ラッシュを決めるだけで簡単に沈んだ。弱い。

「なぁ、亜輝斗。」

 僕は、亜輝斗の髪の毛をつかみ、無理やり顔を上げさせる。

「僕はこの程度で、済ますつもりはないんだ。」

 そういうと、僕は亜輝斗を抱き起こし、両腕をコーナーポストに縛り付けた。

「そんなにガルのことがわかるなら、お前にも味合わせてやるよ。」

 ガッ!

 立つことも座ることも許されない亜輝斗に、ボディーブローを入れた。

「う…あぁぁ…!」

 亜輝斗が苦しむ。

 それで、いい…

「ぐはっ!がぁっ!げはぁっ!」

 休むことなく、ボディーを攻め続ける。そして。

「ぐあぁぁっ!」

 大声を上げると、亜輝斗はそのまま失神してしまった。

 何もかもが、憎らしい。

 全てを奪ったガルが憎い。

 わかってくれると思っていた亜輝斗が憎い。

 独りの自分が憎い。

 だけど…

 ふっと我に返る。

 とんでもないことをしたことに、気づいた僕がいた。

 でも、それは仕方のなかったことだ。

 やらなければ、僕が我慢するだけだったんだ。

 それしか方法はなかったんだ。

 

 僕は、ジムを出た。

 虚しさが募るだけだったから。

 

 家に帰りたくなかった。

 うすうす、自分のしていたことのひどさを心に感じていた。

 僕は行く当てなく、あたりをふらついた。

 

 それから1時間くらいだろうか。

結局、僕はジムのあたりをふらついていた。

どこに行っても自分を受け入れてくれない。そう感じたからだ。

それは自分のことでもあれば、その場の感情でひどいことをした自責の念。そう光騎は思いたかった。

 でも、その自責どうすればよいのかわからなかった。

 今更ながらに、自分のしたことを後悔した。

 手が震えてきた。

 体が熱くなってくるのがわかる。

 どうすればいい?

 どうすれば…

「光騎!」

「悠摩、さん…?」

 不意に聞こえたその声を聞くと涙があふれてきた。

「光騎!お前!大丈夫か!」

「大丈夫?…え?」

「今ジムに行ったら、ガルと亜輝斗が強姦魔に襲われたと言っててな、

 あんまり帰りが遅いからおかしいと思ってたんだが…お前は大丈夫か!?」

「え…」

 どうして…?

 どうしてだよ!

 強姦魔は、僕なのに!

「お前は大丈夫みたいだな。すまないが…」

「違う!」

 僕は叫んでいた。

「違う…違う…」

「どうした、光騎。何かあったのか?」

「僕が…僕が…僕がやった…」

 泣きながら、僕は悠摩さんに全てを話した。

 

「そうか。」

 全てを話した僕に、悠摩さんはただそれだけ言った。

「僕、どうしたら…」

「それは、光騎が考えろ。自分のしたことには責任を持ちな。だけどな。相談に乗ったり、

 後押しすることはいくらでもできる。だから、光騎がどうしたいのか。俺に話してくれ。」

「僕は。」

 自分の望んだこと。今、本当に望むこと。

「僕は、またみんなと一緒にいたい。みんなに謝って、許してもらいたい。」

「拒絶されたらどうする。」

 悠摩さんの声に、ふっと意識がよぎる。それだけのことをした、という現実がつきかかってくる。でも、それでも。

「それでも、許してもらうまで、僕は…」

 その声を聞くと、悠摩さんはうれしそうに笑った。

「それだけの覚悟があれば十分だ。ジムに行こう。一緒に、謝ろう。」

「はい。」

 しっかりとそういうと、僕たちはジムへ戻っていった。

 

 あれから2週間。

 相変わらずガルは僕に付きまとう。

 亜輝斗も変らずに僕と毎日ジムに励む。

 でも、それでよかった。

 今となっては、汚いものも全てがきれいなものに見えた。

 

<シンジルモノ>

End